歩けなくなって

歩きながら携帯からよく電話してしまう癖がある!

「けっこう歩かれるんですね」なんて人にいわれる

くらいウォーキングが趣味になってしまっているが、

本当は一度歩くことができなくなったことがきっかけ

だったがもう覚えていないくらいの遠い記憶になって

しまった。事故である日突然、立つのすら困難に。



右足をびっこ引きながらよちよち歩きで会社に行ったら

一目で支店長がぶっ飛んだ目をした!

3日後くらいに別室に呼ばれて「もうそれは病院へ行った

ところで一生治らんやろう!!!」と遠まわしに言われ

ないだけまだましなのかなあ〜と思った。



交差点の信号が怖かった。赤になっているときにきちんと

そこで待って青になってから渡らないと、青になっている

のを慌てて急いで「渡らなければ」とがんばってしまうと

歩くスピードが遅いので車に4回くらいひかれそうに

なった。ドライバーに怒鳴られるとかそんなの普通。



電車の駅のホームが怖かった。後からバッ〜〜〜と一斉に

人がやってくるのが、俺の歩くスピードが遅すぎるので

特に階段なんかは下りるときが苦手で、一度ラッシュの

時に後から突き飛ばされて転んで救急車まで呼ばれて

しまった。邪魔だどけよ〜みたにそんなにも普通。




付き合っていた彼女に「身体障害者と付き合うわけに

いかないから、今の内にわかれるのがお互いのため。

ごめんなさい」と言われてしまい

「別に俺の方もいいけど」と強がってつい言った。

なんで手帳も持っていない俺が身体障害者でそれも一生

治らないと言われるのかも理解できなかった。

女がなんか怖くなった。

なんか捨てられるような立場なんだけど、どこか

プライドのようなもので、さすがに俺も

「俺の事を見捨てないでくれないか」とは言えなかった。




歩いていると長くも歩けないので途中立ち止まったりする

んだけど、若い女の子なんかに「足が悪いんですか?」と

声を掛けられると「ええ、生まれつき悪くてね」とか

変なことを答える人間になっていた。




大分の湯布院の日本旅館の温泉に行ったときに、20代の

着物を着た若い女将に「足が悪いんですか?」と声を掛けら

れた時には「そうですね、だって健康だったら温泉なんかに

わざわざ来ないでしょう?」と心が曲がったことを言う

そんな人間になっていた。




なんだかまるで地獄の迷路の中に迷い込んでしまった!

そんな俺がいた。




人生って不思議だなあ〜と思う。

会社には同じ時期に俺と同じように突然に歩くことが

出来なくなった20歳くらいの女の子がいたんだけども

その子は結局一生車椅子の生活になってしまった!




過酷なリハビリをやった俺の方はなんか3ヶ月くらいで

ある程度なんとか歩けるようになり、半年後には

走ることも車の運転もできるようになり、嬉しくて

福岡から広島まで泊りがけでドライブしてしまった。




病院では体の筋肉が硬直しないように動かさないと!

といわれた。




「歩かないと俺の人生はもうきっと終わってしまうんだ!」




そんなことがあたまに焼きついたときにきっと、

変な習慣のようなものになってしまったんだと思う。

「リハビリってきついんでしょ?」とか訊く人もいるが

俺には歩けないそんな人生とどっちが良いのか?の

2択しかなかったので、惨めなものよりも過酷なものが

合っていたのかもしれない。



もう随分前の話だけど、いまだになんか歩く癖が抜けなく

て、携帯電話がポケットにあるんで、そこで電話して

しまう。いつになったら俺は歩かないじいさんになるん

だろうか・・・じじいになっても同じことをやって

しまうのだろうか・・・




暇だったんで掲示板を見てたら

「好きな彼氏にフラレテしまってつらい。

死んでしまえば楽になりますか?

死ぬのはつらくないですか?終えてください」とか

そんなことが書いてあったが、




なんでそんなことくらいで簡単に死ねるんだろか!

どうして自分で自分の人生をあきらめることができる

だろうか。

死にたいとか考えたこともない俺にはよくわからん。

今日はそんな1日だった。